転職活動中に、まさかの事態に遭遇したことはありませんか?
「内定先の人事担当者が、実は選考をサポートしてくれていた転職エージェントの担当者だった」――これは、筆者が実際に体験した驚きの出来事です。
まるでドラマのような展開に、あなたは戸惑いや不信感を覚えるかもしれません。しかし、感情的になる前に、まずはこの事態がなぜ起こりうるのか、法的に問題はないのか、そして自分が当事者になった場合にどう対処すべきかを冷静に理解することが重要です。
この記事では、単なる体験談に留まらず、この稀なケースの裏に潜む構造的な背景を分析し、法的側面から問題点を解説します。そして、もしあなたが同じ状況に陥った際に、冷静かつ論理的に判断し、最善の選択をするための具体的な行動計画と思考ツールを提供します。
あなたの転職活動の主導権は、常にあなた自身が握るべきものです。予期せぬ事態に直面しても、この記事が冷静な一歩を踏み出すための羅針盤となることを願っています。
なぜ起こる?「エージェントが人事」という事態の3つの構造的背景
転職エージェントの担当者が、まさか内定先の人事だったという事態は、一見すると異常に思えるかもしれません。しかし、人材業界の構造や企業の採用戦略を深く理解すると、いくつかの背景から起こりうることが見えてきます。
ここでは、その主な3つの構造的背景を解説します。
【背景1】人材紹介会社と企業の人的交流
人材紹介業界と企業の人事部門の間には、活発な人的交流が存在します。これは、元々企業の人事担当者が転職エージェントに転身するケースや、逆にエージェントが企業の採用担当として転職するケースを指します。
- 元人事担当者がエージェントへ: 企業の人事として採用経験を積んだ人が、その知識と経験を活かして転職エージェントになることはよくあります。彼らは企業の採用プロセスや文化を熟知しているため、求職者への深いアドバイスが可能です。この場合、過去に担当していた企業の人事と、エージェントとして再会する可能性はゼロではありません。
- 元エージェントが企業人事へ: 転職エージェントとして企業の採用を支援していた人が、その企業に魅力を感じ、直接人事として入社するケースも増えています。特に、スタートアップや成長企業では、即戦力となる採用のプロフェッショナルが求められるため、エージェントがそのポジションに就くことがあります。このケースでは、エージェント時代に担当していた求職者と、企業人事として面接で対面する可能性が出てきます。
【背景2】採用代行(RPO)や兼業モデル
近年、企業の採用活動を外部に委託する「RPO(Recruitment Process Outsourcing:採用代行)」が普及しています。エージェントがRPOサービスを提供する中で、特定企業の採用業務に深く関わるケースがあります。
- RPOサービスの一環: 採用代行サービスでは、エージェント企業が採用戦略の立案から応募者対応、面接日程調整、内定出しまで、採用プロセスの広範囲を請け負います。この際、エージェントの担当者が、あたかもその企業の人事担当者であるかのように振る舞い、求職者と接することもあります。
- 特定企業への兼務・常駐: 特に採用が活発な企業や、一時的に採用リソースが不足している企業では、転職エージェントの担当者が特定の企業に一定期間常駐し、採用担当者として業務を行うことがあります。この場合、エージェントとしての立場と、企業の採用担当者としての立場を兼務していることになります。
【背景3】スタートアップ・小規模企業特有の事情
スタートアップや社員数の少ない小規模企業では、採用チャネルが限定的であったり、採用リースが不足していたりするが故に、独特の事情で「エージェントが人事」という状況が生まれやすくなります。
- 採用リソースの不足: 専任の人事担当者がいない、あるいは少人数で採用以外の業務も兼務している企業では、外部の専門家である転職エージェントに採用活動を丸ごと依存する傾向があります。
- リファラル採用との混在: 知人紹介(リファラル採用)が多いスタートアップでは、紹介者がそのまま採用プロセスの一部を担うこともあります。エージェントが企業と密接な関係を築いている場合、その境界線が曖昧になることがあります。
- 採用チャネルの集約: 限られた予算の中で効率的に採用を行うため、特定の信頼できるエージェントに採用活動を一任し、そのエージェントが実質的な人事部門のような役割を果たすケースも考えられます。

これらの背景を理解することで、個人的なトラブルではなく、業界構造やビジネスモデルから生じうる事態として冷静に捉えることができるでしょう。
これって違法?個人情報保護法・職業安定法から見る法的論点
転職エージェントの担当者が内定先の人事だったという状況は、倫理的な問題だけでなく、法的な観点からもいくつかの論点を孕んでいます。ここでは、個人情報保護法と職業安定法を軸に、どのような場合に問題となりうるのかを客観的に解説します。
論点1:個人情報保護法における「目的外利用」に該当しないか?
求職者が転職エージェントに提供した個人情報(氏名、連絡先、職務経歴、希望条件、他社選考状況など)は、原則として「求職者の職業紹介」という目的のために利用されるべきものです。
もし、エージェント担当者が企業の人事担当者として、求職者がエージェントに伝えた情報を、求職者の同意なく「採用企業の利益のため」に利用した場合、個人情報保護法が定める「目的外利用の禁止」に抵触する可能性があります。
しかし、多くの場合、転職エージェントの利用規約や個人情報保護方針には、「求職者の同意に基づき、適切な求人企業への情報提供を行う」旨が記載されています。この「同意」の範囲がどこまでか、そして兼業の事実が明かされないままであった場合に、適切な同意があったと言えるのかが論点となります。特に、求職者が兼業の事実を知っていれば提供しなかったであろう情報や、企業側に知られたくない情報が利用された場合は、問題視される可能性が高まります。
論点2:職業安定法で定められた「秘密を守る義務」との関係性は?
職業安定法第46条では、職業紹介事業者は、その業務に関して知り得た求職者または求人者の秘密を漏らしてはならないと定めています。これは、求職者が安心して転職活動を行えるよう、そのプライバシーを保護するための重要な義務です。
エージェントが企業人事と兼務している場合、求職者の秘密(例えば、他社選考状況、給与交渉の希望額の最低ライン、転職理由の本音など)が、その企業の採用活動に有利になる形で利用される可能性があります。これは、職業紹介事業者としての「秘密を守る義務」と、企業人事としての「自社の利益を最大化する義務」との間で利益相反が生じ、求職者の秘密が適切に保護されない事態を招きかねません。
一般的に、法律専門家は、職業紹介事業者が兼業を行う場合、求職者の情報が不当に利用されないよう、厳格な情報管理体制と、兼業の事実および情報利用の範囲に関する明確な同意形成が不可欠であると指摘します。
論点3:利益相反の問題はないのか?候補者の利益は守られるのか?
転職エージェントは、求職者と求人企業の間に入り、双方の利益を調整する役割を担います。しかし、エージェントが企業人事と兼務している場合、企業側の利益を優先するインセンティブが強く働き、求職者の利益が損なわれる可能性があります。
例えば、給与交渉において、エージェントは求職者の希望を企業に伝え、最適な条件を引き出すサポートをするはずです。しかし、兼業の場合、企業側の人件費を抑える方向で誘導したり、求職者にとって不利な条件を飲ませようとしたりするリスクが考えられます。
また、選考過程でのフィードバックの客観性や、入社後のキャリアパスに関するアドバイスの公平性も失われる可能性があります。転職エージェントのサービスは、求職者が中立的な立場の専門家からの支援を受けられるという前提に基づいています。この前提が崩れることは、求職者にとって極めて大きな不利益となりえます。
これらの法的論点から見ても、「エージェントが人事」という状況は、個別のケースや契約内容によって判断は異なりますが、求職者の権利保護の観点から慎重な対応が求められる事態であると言えるでしょう。
もし当事者になったら?冷静に対処するための3ステップ行動計画
もしあなたが転職活動中に、転職エージェントの担当者が内定先の人事だったという事態に直面したら、パニックにならず、以下の3ステップで冷静に対処しましょう。感情論ではなく、事実に基づいた論理的な行動が、あなたのキャリアを守る上で最も重要です。
Step1【事実確認】:まずはエージェント企業に正式に問い合わせる
まず最初に行うべきは、事実関係を明確にすることです。担当者本人に直接問い詰めるのではなく、エージェント企業の本社や、担当者の上長、またはカスタマーサポート窓口に対し、書面(メールなど記録が残る形)で正式に問い合わせを行いましょう。
問い合わせるべきポイントは以下の通りです。
- 担当者と内定先企業との関係性: 担当者が、いつから、どのような立場で、内定先企業の採用活動に関わっているのか。
- 兼業の事実の開示義務: なぜこの事実が選考前に開示されなかったのか。
- 個人情報の取り扱い: 自分がエージェントに提供した個人情報が、どのような範囲で、どのような目的で、内定先企業の人事担当者として利用されたのか。
この問い合わせは、後の対応を検討するための重要な情報収集となります。曖昧な回答で済まされないよう、具体的な情報開示を求めましょう。
Step2【契約確認】:エージェントとの契約書や利用規約を再確認する
次に、あなたがエージェントサービスを利用する際に同意した契約書や利用規約、個人情報保護方針を改めて確認してください。
- 個人情報の取り扱いに関する条項: 個人情報の利用目的、第三者提供の範囲、兼業に関する記載がないかを確認します。特に、「提携企業への情報提供」や「採用活動のサポートを目的とした情報利用」といった文言があったとしても、それが兼業という特殊な状況下での利用までを許容する内容であるか、慎重に読み解く必要があります。
- 秘密保持義務に関する記載: エージェントが負う秘密保持義務について、どのような規定があるかを確認します。
もし、兼業の事実や、それによる個人情報利用の可能性について明確な記載がなく、かつあなたがその事実を知らされていなかった場合、契約違反や説明義務違反を主張できる可能性があります。
Step3【意思決定】:事実関係を元に、選考を続けるか、辞退するかを冷静に判断する
事実確認と契約内容の確認が終わったら、それらの情報に基づき、あなたのキャリアにとって最適な選択を冷静に判断しましょう。感情に流されず、メリットとデメリットを比較検討することが重要です。
判断軸の例:
- 選考を続ける:
- メリット: 担当者が内情に詳しいため、入社後のミスマッチが少ない、選考がスムーズに進む可能性がある。
- デメリット: 情報の客観性・中立性への懸念、給与交渉などで不利になる可能性、心理的な圧迫感。
- 判断基準: 企業の魅力が非常に高く、担当者との信頼関係を再構築できると判断できる場合。情報の透明性が確保され、あなたの利益が守られると確信できる場合。
- 担当者変更を申し出る:
- メリット: 新しい担当者によって中立性が保たれる可能性。
- デメリット: 選考プロセスが一時的に停滞する可能性、エージェント企業への不信感が残る可能性。
- 判断基準: エージェント企業全体への信頼はまだ残っており、別の担当者であれば問題なく進められると考える場合。
- 選考を辞退する:
- メリット: 精神的な負担から解放される、信頼できないエージェントや企業との関係を断ち切れる。
- デメリット: その企業への入社の機会を失う、転職活動を最初からやり直す必要がある。
- 判断基準: 信頼関係が完全に崩壊し、このまま選考を進めることに大きな不安や不信感がある場合。他の魅力的な選択肢がある場合。

この3ステップを踏むことで、あなたは状況を客観的に把握し、感情に流されることなく、自身のキャリアにとって最善の道を選択することができるでしょう。
メリット・デメリットを比較!状況を客観的に判断する思考ツール
転職エージェントの担当者が内定先の人事だったという状況は、確かに戸惑いを伴いますが、一面的なデメリットばかりではありません。客観的にメリットとデメリットを比較することで、冷静な判断を下すことができます。以下の表を参考に、ご自身の状況を評価してみてください。
| 項目 | メリット
「感情論抜きで、一番安くて速いのはどこか?」を徹底検証。
元・家電量販店のスマホコーナー担当。
複雑な料金プランやキャンペーンの「裏の条件」を読み解くのが趣味です。
「なんとなく大手キャリア」で毎月損をしている人を見ると放っておけません。
実測スピードテストと料金シミュレーションに基づいた、忖度のない情報を発信します。
ガジェットと猫が好き。


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