不動産管理業務における経理処理は、物件数が増えるほど煩雑になりがちです。特に「特定物件の修繕費」の仕訳は、発生頻度や金額、対象物件の特定など、細やかな管理が求められます。本記事では、この課題を解決するため、会計ソフトと不動産管理SaaSをAPI連携させ、修繕費の自動仕訳を実現する具体的な設定例と、その全体像を専門的かつ論理的に解説します。
なぜ今、会計ソフトと不動産管理SaaSのAPI連携による自動化が必須なのか?
不動産管理業務に携わる経理担当者や小規模不動産オーナーの皆様は、日々の業務で以下のような課題に直面していないでしょうか?
- 物件ごとの修繕費の仕訳が煩雑: 複数の物件を管理している場合、どの修繕費がどの物件に紐づくのかを手作業で確認し、仕訳を起票する作業は膨大な時間と手間がかかります。
- 手入力によるミス: 人手によるデータ入力は、誤入力や転記ミスといったヒューマンエラーのリスクを常に伴います。これが月次決算の遅延や、正確な財務状況の把握を妨げる原因にもなります。
- 月次決算の遅延: 上記の課題が重なることで、月次決算の早期化が難しくなり、経営判断のスピードに影響を与える可能性があります。
これらの課題を根本的に解決し、業務効率を飛躍的に向上させる最も効果的な手段が、API連携による「特定物件の修繕費」の自動仕訳です。不動産管理SaaSで入力・管理されている修繕費データを、会計ソフトへ自動で連携させることで、手作業による負担をなくし、ミスのない正確な経理処理を実現できます。
この記事を読み進めることで、皆様は会計ソフトと不動産管理SaaSのAPI連携によって、特定物件の修繕費を自動仕訳させるための具体的な設定手順と、その全体像を深く理解できるようになるでしょう。
API連携の前に押さえるべき3つの必須知識と準備事項
API連携による自動仕訳を始める前に、その仕組みと必要な準備について理解しておくことが重要です。
【知識1】データ連携の全体像:不動産管理SaaSから会計ソフトへデータが流れる仕組みを図解
API連携とは、異なるソフトウェア間でデータをやり取りするためのインターフェース(窓口)です。不動産管理SaaSと会計ソフトの連携では、主に以下の流れでデータが処理されます。
- 不動産管理SaaSでのデータ発生: 修繕費の発生・計上、支払いなどが不動産管理SaaSに記録されます。
- APIリクエストによるデータ取得: 会計ソフト側、または連携ツールが、不動産管理SaaSのAPIを通じて修繕費データを要求します。
- データ変換(マッピング): 取得したデータを、会計ソフトが認識できる形式(勘定科目、補助科目、摘要など)に変換します。
- APIリクエストによる仕訳登録: 変換された仕訳データを、会計ソフトのAPIを通じて登録します。
この一連の流れを視覚的に捉えることで、API連携の仕組みがより明確になります。

【知識2】連携対象ソフトの技術要件:APIの公開状況、認証方式、データ形式の確認ポイント
API連携を検討する上で、利用中の会計ソフトと不動産管理SaaSがAPIを公開しているか、どのような技術要件を持つかを確認する必要があります。
- APIの公開状況: まずは、各SaaSの公式サイトやヘルプページでAPIの提供有無を確認します。freeeやマネーフォワード クラウドなどの主要な会計ソフトは一般的にAPIを公開しています。不動産管理SaaSも、近年API連携を強化しているサービスが増えています。
- 認証方式: APIを利用するには、不正アクセスを防ぐための認証が必要です。一般的な認証方式としては、APIキー、OAuth2.0などがあります。どちらの方式を採用しているか、認証情報の取得方法を確認しましょう。
- データ形式: APIでやり取りされるデータの形式は、主にJSON(JavaScript Object Notation)やXML(Extensible Markup Language)が主流です。特にJSONはWebAPIで広く用いられています。APIドキュメントで、どのようなデータ構造で送受信されるかを確認します。
【知識3】必要な準備リスト:各SaaSのAPIキー/トークン、テスト環境、APIドキュメントの入手方法
API連携をスムーズに進めるために、以下の準備を進めましょう。
- APIキー/トークンの取得: 各SaaSの管理画面や開発者向けポータルから、API利用に必要なキーやトークンを発行します。これらは非常に重要な情報であるため、厳重な管理が必要です。
- テスト環境の準備: 本番環境に影響を与えないよう、必ずテスト環境でAPI連携の動作確認を行いましょう。多くのSaaSでは、開発者向けにサンドボックス環境やテストアカウントを提供しています。
- APIドキュメントの入手: 各SaaSが提供するAPIドキュメント(開発者向けガイド)を入手します。ここには、利用可能なAPIエンドポイント、リクエスト/レスポンスの形式、認証方法、エラーコードなどが詳細に記載されています。
【3ステップ解説】修繕費を自動仕訳するAPI設定の具体例
ここでは、不動産管理SaaSから修繕費データを取得し、会計ソフトに自動で仕訳登録する具体的なAPI設定のステップを解説します。具体的なコード例は、一般的なAPIの記述方法に基づいた架空の例として提示します。
ステップ1:不動産管理SaaSから「特定物件の修繕費データ」を取得するAPIリクエスト例
まず、不動産管理SaaSのAPIを利用して、特定の物件に関する修繕費データを取得します。
APIエンドポイント例:
GET https://api.your-pm-saas.com/v1/properties/{property_id}/expenses
パラメータ指定方法:
* property_id: 修繕費を取得したい物件のID(例: PROPERTY001)
* start_date: 取得期間の開始日(例: 2023-01-01)
* end_date: 取得期間の終了日(例: 2023-01-31)
* category: 費目のフィルタリング(例: repair)
cURLリクエスト例:
curl -X GET \
'https://api.your-pm-saas.com/v1/properties/PROPERTY001/expenses?start_date=2023-01-01&end_date=2023-01-31&category=repair' \
-H 'Authorization: Bearer YOUR_PM_SAAS_API_TOKEN' \
-H 'Content-Type: application/json'
このリクエストにより、指定された物件の修繕費データがJSON形式で返されます。
レスポンスデータ例 (JSON):
[
{
"expense_id": "EXP001",
"property_id": "PROPERTY001",
"property_name": "〇〇マンション101号室",
"date": "2023-01-15",
"amount": 50000,
"description": "エアコン修理費用",
"vendor": "△△電気工事",
"status": "paid"
},
{
"expense_id": "EXP002",
"property_id": "PROPERTY001",
"property_name": "〇〇マンション101号室",
"date": "2023-01-20",
"amount": 30000,
"description": "壁紙張替え費用",
"vendor": "□□内装",
"status": "paid"
}
]
ステップ2:取得データを会計ソフトの形式に変換するロジック(データマッピング)
取得した修繕費データを、会計ソフトが仕訳として登録できる形式に変換(マッピング)します。ここでは、特に重要な勘定科目、補助科目、摘要欄の紐付けについて解説します。
| 不動産管理SaaSデータ項目 | 会計ソフト仕訳項目 | マッピングロジック |
|---|---|---|
date |
発生日 | そのまま利用 |
amount |
金額(借方/貸方) | 借方金額として利用(貸方は現金または預金) |
description |
摘要 | descriptionとproperty_name、vendorを組み合わせて生成 |
property_name |
補助科目(物件名) | 会計ソフトで設定済みの物件補助科目コードに変換 |
expense_id |
仕訳ID(任意) | 二重仕訳防止のため、管理IDとして利用(会計ソフト側の備考欄など) |
データ変換ロジック例 (Python):
def map_expense_to_journal(expense_data):
journal_entries = []
for expense in expense_data:
# 借方:修繕費
debit_entry = {
"date": expense["date"],
"account_code": "525" if expense["amount"] < 200000 else "162", # 例: 20万未満は修繕費、以上は建物付属設備
"sub_account_name": expense["property_name"], # 物件名を補助科目として利用
"amount": expense["amount"],
"description": f"{expense['property_name']} {expense['description']} ({expense['vendor']})",
"transaction_id": expense["expense_id"] # 元データのIDを紐付け
}
journal_entries.append(debit_entry)
# 貸方:普通預金(例)
credit_entry = {
"date": expense["date"],
"account_code": "108", # 普通預金
"sub_account_name": "〇〇銀行", # 支払元口座
"amount": -expense["amount"], # 貸方はマイナスで表現
"description": f"{expense['property_name']} {expense['description']} ({expense['vendor']})",
"transaction_id": expense["expense_id"]
}
journal_entries.append(credit_entry)
return journal_entries
- 注釈: 勘定科目コードは、会計ソフトによって異なります。事前に自社で利用しているコードを確認し、適切にマッピングしてください。
ステップ3:会計ソフトへ仕訳データを登録するAPIリクエスト例
変換した仕訳データを、会計ソフトのAPIを通じて登録します。
APIエンドポイント例:
POST https://api.your-accounting-saas.com/v1/journals
リクエストボディのJSON構造例:
{
"journals": [
{
"issue_date": "2023-01-15",
"journal_details": [
{
"account_code": "525",
"sub_account_name": "〇〇マンション101号室",
"dr_amount": 50000,
"cr_amount": 0,
"description": "〇〇マンション101号室 エアコン修理費用 (△△電気工事)"
},
{
"account_code": "108",
"sub_account_name": "〇〇銀行",
"dr_amount": 0,
"cr_amount": 50000,
"description": "〇〇マンション101号室 エアコン修理費用 (△△電気工事)"
}
],
"tags": ["修繕費", "PROPERTY001"] # タグ付けで検索性を高める
},
{
"issue_date": "2023-01-20",
"journal_details": [
{
"account_code": "525",
"sub_account_name": "〇〇マンション101号室",
"dr_amount": 30000,
"cr_amount": 0,
"description": "〇〇マンション101号室 壁紙張替え費用 (□□内装)"
},
{
"account_code": "108",
"sub_account_name": "〇〇銀行",
"dr_amount": 0,
"cr_amount": 30000,
"description": "〇〇マンション101号室 壁紙張替え費用 (□□内装)"
}
],
"tags": ["修繕費", "PROPERTY001"]
}
]
}
cURLリクエスト例:
curl -X POST \
'https://api.your-accounting-saas.com/v1/journals' \
-H 'Authorization: Bearer YOUR_ACCOUNTING_SAAS_API_TOKEN' \
-H 'Content-Type: application/json' \
-d '{
"journals": [
{
"issue_date": "2023-01-15",
"journal_details": [
{
"account_code": "525",
"sub_account_name": "〇〇マンション101号室",
"dr_amount": 50000,
"cr_amount": 0,
"description": "〇〇マンション101号室 エアコン修理費用 (△△電気工事)"
},
{
"account_code": "108",
"sub_account_name": "〇〇銀行",
"dr_amount": 0,
"cr_amount": 50000,
"description": "〇〇マンション101号室 エアコン修理費用 (△△電気工事)"
}
],
"tags": ["修繕費", "PROPERTY001"]
}
]
}'
成功/失敗時のレスポンスコード解説:
- 200 OK / 201 Created: リクエストが正常に処理され、仕訳が登録されたことを示します。
- 400 Bad Request: リクエストの形式が不正、必須パラメータが不足しているなどのエラーです。リクエストボディやヘッダーを見直しましょう。
- 401 Unauthorized: 認証情報が不正または不足しています。APIキーやトークンを確認してください。
- 403 Forbidden: 認証は成功したが、APIを呼び出す権限がない場合のエラーです。
- 500 Internal Server Error: 会計ソフト側のサーバーで問題が発生しています。
連携後の安定運用を実現する4つの重要チェックポイント
API連携は一度設定すれば終わりではありません。安定した自動仕訳を実現するために、以下のポイントを確認しましょう。
- エラーハンドリング: API通信はネットワーク状況やSaaS側の都合で失敗することがあります。エラー発生時に、担当者へSlackやメールで通知する仕組みや、一定時間後に自動でリトライする処理を実装することで、データ欠損や仕訳漏れを防ぎます。
- データの一貫性担保: 二重仕訳の防止は、経理処理において最も重要です。不動産管理SaaSの修繕費IDを会計ソフトの仕訳の備考欄などに記録し、既に登録済みの仕訳は再度登録しないロジックを組み込みましょう。また、API連携の実行ログを記録し、いつ、どのデータが、どのように処理されたかを追跡できるようにすることも重要です。
- セキュリティ対策: APIキーやトークンは、SaaSへのフルアクセス権限を持つ重要な情報です。これらをソースコードに直接書き込むのではなく、環境変数やシークレット管理ツール(例: AWS Secrets Manager, Azure Key Vault)を用いて安全に保管・管理してください。また、定期的なAPIキーの更新も推奨されます。
- コスト面の考慮: 多くのSaaSのAPIには、1分間あたりのコール数や1日あたりのデータ量に制限が設けられています。この制限を超過すると、追加料金が発生したり、一時的にAPI利用が停止されたりする可能性があります。連携頻度やデータ量を考慮し、SaaSのAPI利用規約や料金プランを事前に確認し、適切なプランニングを行いましょう。
【目的別】API直接開発 vs iPaaS/RPAツール利用のメリット・デメリット比較
API連携を実現する方法は、大きく分けて「APIを直接開発する」方法と、「iPaaS/RPAツールを利用する」方法の2つがあります。自社の状況に合わせて最適な方法を選択しましょう。

| 比較項目 | API直接開発 | iPaaS/RPAツール利用 |
|---|---|---|
| メリット | ・高い自由度と柔軟性で、複雑な要件にも対応可能 ・長期的に見れば、自社で保守できるため低コストの可能性 |
・非エンジニアでもGUIで構築可能で、迅速な導入が可能 ・豊富なSaaS連携コネクタが用意されている ・保守・運用が比較的容易 |
| デメリット | ・高度なプログラミングスキルとAPI知識が必要 ・開発・テスト・保守に多大な工数と時間がかかる ・エラーハンドリングやセキュリティ対策も自社で実装が必要 |
・月額費用が発生し、連携数や処理量に応じてコストが増加 ・ツールの機能や処理に制限があり、複雑なロジックは実装が難しい ・特定のSaaSのAPI変更に対応が遅れる可能性も |
| 最適なケース | ・社内に開発リソースがあり、独自の複雑な連携ロジックが必要な場合 ・将来的に他のシステム連携も多数検討している場合 |
・社内に開発リソースが限られている場合 ・迅速に連携を実現したい場合 ・Make, Zapier, Power Automateなど、連携したいSaaSのコネクタが充実している場合 |
iPaaS/RPAツールの具体例:
- Make (旧Integromat): 視覚的なインターフェースで複雑なワークフローを構築でき、API連携の柔軟性が高い。
- Zapier: 膨大な数のSaaSと連携可能で、簡単な自動化から始めるのに適している。
- Microsoft Power Automate: Microsoft製品との親和性が高く、RPA機能も備えているため、デスクトップ操作を含む自動化も可能。
自社に最適な方式を選ぶための判断基準:
- 社内の技術リソース: プログラミングスキルを持つ人材がいるか。
- 予算: 開発にかける初期投資と、ランニングコスト(月額費用)のバランス。
- 連携の複雑性: どれだけ複雑なデータ変換や条件分岐が必要か。
- 導入までのスピード: どれくらいの期間で自動化を実現したいか。
これらの要素を総合的に判断し、自社に最適なアプローチを選択してください。
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業務効率化をさらに加速させたい方へ
本記事で解説したAPI連携による自動化は、経理業務のDX推進における強力な一歩です。さらなる業務効率化や、最新のITツール導入に関する知識を深めるために、以下の書籍やツールもぜひご検討ください。
- 経理DX推進のための実践ガイドブック: 最新のクラウド会計ソフト活用術や、RPA導入のノウハウを網羅。
- ビジネス自動化ツール徹底比較: iPaaSやRPAツールの具体的な導入事例や選び方を解説。
- 最新の不動産テック動向レポート: 不動産業界におけるテクノロジー活用事例を紹介し、未来の業務効率化のヒントを提供。
これらの情報が、皆様のビジネスを次のステージへ進める一助となることを願っています。
まとめ:API連携による自動化で不動産経理のDXを加速させよう
本記事では、会計ソフトと不動産管理SaaSをAPI連携させ、特定物件の修繕費を自動仕訳させる具体的な方法について解説しました。手作業による煩雑な仕訳作業、ヒューマンエラーのリスク、月次決算の遅延といった課題は、API連携による自動化で大きく改善できます。
- 課題解決の重要性: 物件ごとの修繕費仕訳の自動化は、経理業務の正確性とスピードを向上させ、経営判断を加速させます。
- スモールスタートの推奨: 最初から全ての経費や物件を自動化しようとせず、まずは「1物件・1費目(例: 修繕費)」からスモールスタートで始めることをお勧めします。成功体験を積み重ねながら、徐々に連携範囲を広げていくのが現実的です。
- 次のアクション: まずは、現在ご利用中の不動産管理SaaSと会計ソフトのAPI仕様(APIドキュメント)を確認してみましょう。どのようなデータが取得でき、どのような仕訳が登録できるのかを把握することが、自動化の第一歩となります。
API連携による自動化は、不動産管理業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させるための強力な手段です。ぜひ本記事を参考に、貴社の業務効率化を実現してください。
「感情論抜きで、一番安くて速いのはどこか?」を徹底検証。
元・家電量販店のスマホコーナー担当。
複雑な料金プランやキャンペーンの「裏の条件」を読み解くのが趣味です。
「なんとなく大手キャリア」で毎月損をしている人を見ると放っておけません。
実測スピードテストと料金シミュレーションに基づいた、忖度のない情報を発信します。
ガジェットと猫が好き。


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