はじめに:複数副業のふるさと納税、シミュレーターでは不正確かも?
本業だけでなく、複数の副業をされている方にとって、ふるさと納税の控除上限額の計算は一筋縄ではいきません。特に、複数の勤務先からそれぞれ源泉徴収を受けている会社員の場合、一般的なふるさと納税シミュレーターでは、複数の収入源を正確に反映できず、不正確な上限額が算出されてしまうケースが多々あります。その結果、「思ったよりも控除額が少なかった」「実はもっと寄付できたのに」といった事態に陥る可能性もゼロではありません。
しかし、ご安心ください。この記事を読めば、お手元にある全ての源泉徴収票(支払調書を含む)を使って、ご自身で正確な控除上限額を計算する具体的な方法を、まるで税理士やFPが隣で教えてくれるように丁寧かつ平易に解説します。
最も重要なのは、全ての所得を合算し、ご自身の「課税される所得金額」を正しく把握することです。これにより、最大限の控除を受け、賢くふるさと納税を活用できるようになります。
なぜ複数収入があると上限額の計算が複雑になるのか?所得の仕組みから解説
ふるさと納税の控除上限額は、あなたが支払う「住民税所得割額」を基準に計算されるという大原則があります。この住民税所得割額は、所得税と同様に、個人の所得金額に応じて決まります。
複数収入の合算が不可欠な理由
複数の収入源がある場合、それぞれの勤務先から発行される源泉徴収票や支払調書は、あくまでその収入源に関する情報しか記載されていません。つまり、あなたの「正確な所得総額」は、全ての収入を合算して初めて算出されるのです。この所得総額から各種所得控除を差し引いた「課税所得金額」を基に、住民税所得割額が決定されます。全ての収入を合算しなければ、正しい住民税所得割額が計算できず、結果としてふるさと納税の控除上限額も不正確になってしまうのです。
「給与所得」と「雑所得(または事業所得)」の違いと合算の必要性
- 給与所得: 本業の会社からの給与や、アルバイトなど雇用契約に基づく副業からの収入がこれに当たります。源泉徴収票には「給与所得控除後の金額」が記載されており、これが所得金額となります。
- 雑所得(または事業所得): 業務委託契約に基づく副業収入(フリーランスのライティングやコンサルティングなど)は、多くの場合「雑所得」または「事業所得」に分類されます。これらの所得は、収入金額から業務にかかった経費を差し引いて計算します。
例えば、本業が会社員で、副業としてアルバイトと業務委託を行っている場合、これら3つの所得(本業の給与所得、副業アルバイトの給与所得、副業業務委託の雑所得または事業所得)を全て合算し、そこに共通の所得控除(社会保険料控除、基礎控除など)を適用して、最終的な課税所得金額を算出する必要があります。
シミュレーターが誤差を生む理由
一般的なふるさと納税シミュレーターの多くは、単一の給与所得者を想定して作られています。そのため、複数の給与所得や雑所得の合算処理が正しく行われず、結果として誤差が生じてしまうのです。特に、副業での経費計上など、個別の状況を細かく反映できないことが、シミュレーターの限界と言えるでしょう。
【準備】計算に必要な3種の神器:全ての源泉徴収票を用意しよう
正確な控除上限額を計算するために、まずは以下の書類を全て手元に集めましょう。これらは、あなたの所得を証明する最も重要な書類です。
- 本業の給与所得の源泉徴収票
- 副業Aの源泉徴収票(アルバイトなど給与所得の場合)
- 副業Bの支払調書(業務委託など雑所得・事業所得の場合)
- その他、所得控除に関する書類(生命保険料控除証明書、iDeCoの掛金払込証明書、医療費の領収書など)
各書類で見るべき数字
これらの書類の中から、特に以下の項目を確認します。
-
給与所得の源泉徴収票
- 「支払金額」: 1年間の総収入額です。
- 「給与所得控除後の金額」: 給与所得控除が適用された後の、あなたの給与所得金額です。この数字をStep1で利用します。
- 「所得控除の額の合計額」: 源泉徴収票上で会社が適用した所得控除の合計額です(社会保険料控除、生命保険料控除などが含まれます)。
- 「社会保険料等の金額」: 支払った社会保険料の合計額です。
- 「源泉徴収税額」: 会社が源泉徴収した所得税額です。
-
支払調書(業務委託など)
- 「支払金額」: その副業からの総収入額です。ここからご自身で経費を差し引いて所得を計算します。
書類が手元にない場合
もし源泉徴収票や支払調書が手元にない場合は、各勤務先に問い合わせて発行を依頼しましょう。多くの場合、年末調整後や支払確定後に発行されます。
【実践】3ステップで算出!複数副業がある場合の控除上限額 計算方法
それでは、具体的な計算手順を見ていきましょう。ここでは、以下のモデルケースを使って、ステップごとに計算を実演します。
<モデルケース設定>
* 本業(給与所得):
* 年収:500万円
* 給与所得控除後の金額:346万円
* 社会保険料等の金額:70万円
* 副業A(アルバイト/給与所得):
* 年収:80万円
* 給与所得控除後の金額:22万円
* 副業B(業務委託/雑所得):
* 収入:50万円
* 経費:20万円
* 所得:30万円(50万円 – 20万円)
* その他の所得控除:
* 生命保険料控除:4万円
* 基礎控除:48万円(所得金額2,400万円以下の場合)
Step1:全ての収入から「総所得金額等」を算出する
まず、全ての収入源からの所得を合算し、「総所得金額等」を計算します。
- 本業の給与所得: 源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」をそのまま使用します。
- 346万円
- 副業Aの給与所得: 副業の源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」をそのまま使用します。
- 22万円
- 副業Bの雑所得: 収入から経費を差し引いた金額を算出します。
- 50万円(収入) – 20万円(経費) = 30万円
総所得金額等 = 本業の給与所得 + 副業Aの給与所得 + 副業Bの雑所得
= 346万円 + 22万円 + 30万円 = 398万円
Step2:「総所得金額等」から「課税所得金額」を算出する
次に、Step1で算出した「総所得金額等」から、適用される全ての所得控除を差し引いて「課税所得金額」を計算します。
<適用される所得控除の例>
- 社会保険料控除: 実際に支払った社会保険料の全額。本業の源泉徴収票「社会保険料等の金額」に加え、副業で国民健康保険料などを支払っている場合はそれも合算します。
- モデルケース:70万円
- 生命保険料控除: 生命保険料控除証明書に基づき計算された額(上限あり)。
- モデルケース:4万円
- 基礎控除: 全ての納税者に一律で適用される控除(所得金額に応じて控除額は変動します。所得2,400万円以下は48万円)。
- モデルケース:48万円
- その他、iDeCoの掛金(小規模企業共済等掛金控除)、医療費控除、扶養控除などがあれば全て加算します。
所得控除の合計額 = 社会保険料控除 + 生命保険料控除 + 基礎控除
= 70万円 + 4万円 + 48万円 = 122万円
課税所得金額 = 総所得金額等 – 所得控除の合計額
= 398万円 – 122万円 = 276万円
Step3:「課税所得金額」を使って控除上限額を計算する
最後に、Step2で算出した「課税所得金額」を基に、ふるさと納税の控除上限額を計算します。以下の計算式を使用します。
ふるさと納税の控除上限額 = (住民税所得割額 × 20%)÷(90% - 所得税率 × 1.021) + 2,000円
この式に出てくる「住民税所得割額」と「所得税率」をそれぞれ算出します。
① 住民税所得割額の算出
住民税所得割額は、基本的に「課税所得金額の10%」で計算されます(自治体によって均等割額が別途加算されますが、控除上限額の計算には所得割額のみを使用します)。
住民税所得割額 = 課税所得金額 × 10%
= 276万円 × 10% = 27万6,000円
② 所得税率の確認
ご自身の「課税所得金額」に応じた所得税率を確認します。所得税率は国税庁のウェブサイトなどで公開されている「所得税の速算表」で確認できます。
| 課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 0円 |
| 195万円超 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
| 330万円超 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
| … | … | … |
モデルケースの「課税所得金額276万円」は「195万円超 330万円以下」の範囲に該当するため、所得税率は10% となります。
③ 控除上限額の計算の実行
上記の数字を計算式に当てはめます。
ふるさと納税の控除上限額 = (27万6,000円 × 20%)÷(90% – 10% × 1.021) + 2,000円
= 55,200円 ÷(90% – 10.21%) + 2,000円
= 55,200円 ÷ 0.7979 + 2,000円
= 約69,181円 + 2,000円
= 約71,181円
このモデルケースの場合、ふるさと納税の控除上限額は約71,181円となります。
※実際には端数処理や、復興特別所得税率の影響などにより、ごくわずかに差が生じる場合があります。
計算後の重要知識:複数副業と確定申告、ワンストップ特例の注意点
ふるさと納税の控除上限額を自分で計算できたら、次に忘れてはならないのが「確定申告」です。特に複数の副業をしている方は、確定申告が必須となるケースが多いことを理解しておきましょう。
副業所得の合計が20万円を超える場合は確定申告が必要
本業の給与所得以外の所得(副業の雑所得や事業所得など)の合計額が年間20万円を超える場合、原則として確定申告が必要です。モデルケースのように複数の副業がある場合は、それぞれの所得を合算して20万円を超えるか確認しましょう。
確定申告を行う場合、ワンストップ特例制度は利用不可
確定申告を行う場合、ふるさと納税の「ワンストップ特例制度」は利用できません。代わりに、確定申告書で「寄附金控除」を申請する必要があります。
もし、いくつかの自治体にワンストップ特例の申請書を提出していても、確定申告をする場合は、その確定申告書に全てのふるさと納税の寄附金情報を記載し、寄附金控除として申請し直す必要があります。これを怠ると、せっかく寄付した金額が控除されないことになってしまいますので注意しましょう。
確定申告で得られるメリット
確定申告は手間がかかるものですが、以下のメリットもあります。
- 所得税の還付: 各副業先で源泉徴収された所得税が、確定申告によって精算され、還付される可能性があります。
- 医療費控除など他の控除も適用可能: ふるさと納税以外の医療費控除やiDeCoの控除なども、まとめて申請できます。
確定申告書のどこに記入するのか?
ふるさと納税(寄附金控除)は、確定申告書第二表の「寄附金控除」欄に寄附金額や寄附先を記入します。第一表の「所得から差し引かれる金額」の「寄附金控除」欄には、控除額を記入することになります。
【比較】シミュレーターと手計算、結局どちらが正しいのか?
ふるさと納税の控除上限額を知る方法はいくつかありますが、ご自身の状況に合わせて最適な方法を選ぶことが重要です。
| 計算方法 | メリット | デメリット | 推奨される人 |
|---|---|---|---|
| 簡易シミュレーター | 手軽でスピーディー、入力項目が少ない | 複数収入に対応できず誤差が大きい、制度変更に対応が遅れることも | とにかく手軽に大まかな目安を知りたい単一収入者。多少の誤差は許容できる人。 |
| 詳細シミュレーター | 源泉徴収票を元にある程度正確、手計算よりは簡単 | 全ての所得形態に対応できない場合がある、情報入力の手間 | ある程度の正確さを求める単一または少数の給与所得者。詳細な入力に抵抗がない人。 |
| 手計算(本記事の方法) | 最も正確な上限額を把握できる、税制への理解が深まる | 手間と時間がかかる、税法の基礎知識が必要 | 複数収入があり、最大限の控除を受けたい、損をしたくない人。自身の税金について深く理解したい人。 |
結論として、複数の副業があり、ご自身の正確な控除上限額を把握したい、そして最大限の控除を受けたい、損をしたくないと考えるのであれば、一度は手計算で正確な額を把握することが強く推奨されます。 手間はかかりますが、ご自身の税金に関する知識も深まり、将来的に役立つ財産となるでしょう。
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まとめ:全収入を合算し、正確な控除上限額で賢くふるさと納税を
本記事では、複数の副業をお持ちの方が、ふるさと納税の控除上限額を正確に計算する方法を解説しました。ここで、もう一度重要なポイントを振り返りましょう。
- ① 複数収入は合算が原則: 本業の給与所得だけでなく、全ての副業からの所得(給与所得、雑所得、事業所得など)を漏れなく合算することが、正確な計算の第一歩です。
- ② 源泉徴収票(支払調書)が計算の基礎: 各勤務先から発行されるこれらの書類が、所得や控除額を把握するための「3種の神器」となります。
- ③ 計算は3ステップで可能: 「総所得金額等」の算出、「課税所得金額」の算出、そして計算式への当てはめ、という3つのステップで控除上限額を導き出せます。
- ④ 副業所得20万円超なら確定申告を忘れずに: 確定申告が必要な場合、ワンストップ特例制度は利用できません。ふるさと納税の寄附金控除は確定申告で行いましょう。
最も重要なのは、ご自身の全ての収入源からの所得を漏れなく把握し、正確に合算することです。これにより、シミュレーターでは見落とされがちな要素も反映され、あなたにとって最も適切な控除上限額を知ることができます。
まずは、お手元にある全ての源泉徴収票や支払調書を集めることから始めてみましょう。そして、この記事の計算ステップを参考に、ご自身の控除上限額を正確に把握し、賢くふるさと納税を活用してください。
「感情論抜きで、一番安くて速いのはどこか?」を徹底検証。
元・家電量販店のスマホコーナー担当。
複雑な料金プランやキャンペーンの「裏の条件」を読み解くのが趣味です。
「なんとなく大手キャリア」で毎月損をしている人を見ると放っておけません。
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